人工透析は、透析療法と呼ばれ、末期的な腎不全の患者さんにとってはなくてはならない治療方法です。治療とはいっても、これは腎不全を改善させるためのものではなく、腎臓が正常に機能しないかわりに、人工透析によって正しく腎臓が機能しているのと同じ状態を疑似的につくりだすための治療になります。
ですから、厳密にいうならば、人工透析は治療というよりも対処というほうが正しいといえるでしょう。いずれにしても、私たち人間は正しく機能する腎臓がなければ健康な生活を維持することができないわけですから、腎機能を著しく損なった腎不全などの腎疾患の患者さんにとっては、どうしても人工透析が必要になってくるのです。
腎不全などの腎疾患によって腎機能が著しく損なわれると、腎機能の最重要なファクターである毒素(不要物や老廃物)の排出が行われなくなります。血中から毒素が抜けないまま血液が循環することで、尿毒症などの重篤な疾患が見られます。
しかし人工透析を行うことによって、血液の浄化が行われます。これによって、正常な腎臓が正しく機能しているのと同じ状況を取り戻すことができるのです。元来であれば、腎移植をする以外に方法はなかった腎疾患でしたが、人工透析療法の確立によって、腎不全の患者さんには大きな希望の光を見ることができるようになったのです。
腎疾患にかかったら何でもかんでも人工透析をする必要があるのかというと、そうではありません。腎疾患にもいろいろな種類がありますが、腎不全の場合、進行度合いが軽度の段階であれば、そこからさらに悪化しないための治療が必要になります。つまり、できるだけ人工透析に移行しないための治療が重要な意味を持ってきます。
しかし、腎不全の発見が遅れたり、その患者さんの体質あるいは、何らかの理由で腎機能の低下がさらに進行した場合には、人工透析を実施したほうがよいと判断されます。その目安となるのが、腎臓が10%の機能を保持できているのかどうかです。
必ずしもこの10%という数字が、人工透析を実施するかどうかの決め手となるわけではありませんが、少なくとも、10%以下に低下したなら、人工透析に移行しないと腎不全によるさまざまな悪影響が人体におよぶことになります。
そのあたりの詳細については、担当医やご家族と相談しながら、慎重に決定していくことが大切です。生命にかかわることなので、慎重に話を進めていただきたいと思います。